いよいよ共学化 海星新時代へ 時代に応える史上最大のアップデート

噂レベルの話はこれまでにも何度かありましたが、今回は違います。
新設の「国際数理コース」と「進学特別コース」および6年制の「特別教育コース」で21年度から
女子の受け入れをスタートすることが既に公式に発表されています。
OBにとっても一大関心事である海星の共学化。
創立76年目を迎える母校の史上最大ともいえる大変革について、総力取材を敢行。
ここにその全容を明らかにし、同窓諸兄の期待と不安にお応えします。

共学化をめぐる情勢

日本における高校生の数は’89年以降減り続け、男女別学校は各地で次々に共学化していきました。’89年に全国で352校あった男子校は’19年までに3分の1以下の107校(全体の約2%)にまで減少しました。’79年の女子差別撤廃条約採択、’85年の男女雇用機会均等法成立など、男女平等を目指す動きが国内外で進んだことも共学化を後押ししました。

そんな中にあっても、「男子生徒のたくましい教育」を教育方針に掲げた海星が、今日に至るまで輝かしい成果を上げ続けてきたことはご存じのとおりです。

‘55年以来ずっと海星の経営に携わっているエスコラピオス修道会は現在、世界40か国で197の学校の経営に携わっています。それら兄弟校でも共学化は着々と進んでおり、その方向性が今後変わることはないでしょう。

ジェンダーをめぐる問題が未だ数多く残るとはいえ、男女の平等は社会に広く定着しました。さらに、ここ10年ほどで性の多様性に対する社会の認知は急速に広まりました。外見上の性別だけで男女の二者択一を強いられる時代は終わろうとしています。海星の共学化は時代の要請に応えるものだと言えるでしょう。

校長 下村和之 校長 下村和之

たくましさを育む教育を <校長 下村和之>

同窓会の皆さま、日ごろより本校の教育にお気遣い、ご協力いただき誠にありがとうございます。海星は創立75周年の節目を迎え、常に「精神的価値が物質的価値より優位にある」という考え方を基本に、万人を愛し、奉仕と献身の精神を持つ、社会に貢献するたくましい人物の育成を使命としてきました。この使命は世界のすべてのエスコラピオスの学校に求められ、新しい成長の一歩を踏み出す海星にも変わらず求められ続けています。

しかし同時に、世界の変化は大きく、日本でも少子高齢化とグローバル化が進み、教育は大きな変化を求められています。世界の兄弟校が共学化をはじめとする教育改革を進め、男女問わず次世代のリーダーを輩出しているなか、海星も、多様性が求められる今後の社会で活躍する人物の育成が使命とされています。

これからの社会においては、男女を問わず「たくましさ」が必要であると考えています。海星には「心ある文武両道」のもとにたくましい男子を育ててきた教育という大きな財産があります。この財産を活かしつつ、さらにパワーアップすることで、知識力だけでなく探究力と何事にも挑戦する力を持ち、多様な人々と協働して活躍する、たくましさの中にしなやかさを備えた人物の育成を目指していきます。

今後とも同窓会の皆さまのご協力と応援のほどよろしくお願い申し上げます。

同窓会 会長水谷一郎(32回生) 同窓会 会長水谷一郎(32回生)

前進する母校にエールを <同窓会 会長水谷一郎(32回生)>

同窓生の皆さま、こんにちは。 このたび、’19年度同窓会総会においてご推挙を賜り、同窓会会長に就任いたしました32回生の水谷一郎でございます。

同窓生の皆さまにおかれましては、それぞれの分野において日々ご活躍のこととご拝察申し上げます。一方、このたびの新型コロナウイルス感染拡大と経済活動の自粛を受け、先の見えない毎日に不安を抱いておられる方、生活に大きな影響を受けておられる方もいらっしゃると思います。心よりお見舞いを申し上げます。

さて、同窓会は諸先輩方のお力添えにより、今日まで発展を続けてまいりました。過ごした時は違えども、同じ学び舎で苦楽を共にし、励まし合ってきた仲間として、お互いに親しみを感じつつ交流できる場であり続けられるよう願うものであります。

‘21年度から「男女共学」という新たな道に進む母校に対し、変わらぬエールを送り続けるとともに、同窓会の益々の発展に役員一同邁進していく所存です。同窓生の皆さまにおかれましては、更なるご指導ご協力を賜りますようお願い申し上げます。結びに、母校、海星高等学校のさらなる発展と同窓生の皆さまのご多幸を祈念し、就任のご挨拶とさせていただきます。

なぜ今なのか?

もちろん、海星が今、共学化に踏み切ることには大きなきっかけがあります。

一つは新コース創設の構想が立ち上がったことでした。勉学と部活動の両方を大切にする「文武両道」の方針は学校として堅持しながら、より勉学に重きを置く「国際数理コース」を新たに創設する構想です。

公私の別を問わず、多くの高校が勉学と部活動のいずれかを重視して各校の個性を作り上げるなか、海星には昔から勉学重視の生徒と部活動重視の生徒の両タイプの生徒が在籍し、学校全体として「文武両道」を実現していました。

現在は、部活動に真剣に取り組みつつハイレベルな進学をも目指す生徒が多く、彼らは個人として「文武両道」を実現しています。

それだけに、海星は「文武両道」を目指す生徒たちの貴重な選択肢として大きな存在感を持っています。しかし、その特異な存在感ゆえに一昔前の海星では当たり前だった「勉学重視型」の生徒に対するアピールが弱くなったきらいがあります。 「国際数理コース」の創設は、そうした現状への対応策なのです。

もう一つのきかっけは、新しい学習指導要領の導入です。今以上に進展するであろう国際化や情報化を念頭に、新時代に必要となる資質や能力を身につけられるよう、学校における学習の内容や手法が大きく変わるのです。中学では’21年度から、高校では’22年度から、それぞれ新しい学習指導要領が導入されることになっており、海星もそれを前提に準備を進めています。

3コースで共学化~それぞれの特色を活かして~
中学校も同時に共学化!<特別教育コース>

「特別教育コース」は「特教」と通称される、中学から入学する6年制教育のコースです。転・編入学を認めていませんので、共学化の対象は’21年度以降に中学1年生として入学してくる生徒のみとなり、6年後の’26年度にようやく全学年の共学化が完了することになります。

取材に伺ってまず目についたのが教室のホワイトボード。一部の教室には電子黒板も配置され、iPadを使って授業を行う先生もおられるなど、学校教育の現場は大きく変化しつつあります。コロナ禍の休校期間にはネットを使ったリモート授業も実施されたそうです。

そんな目まぐるしい社会環境の変化に対応すべく、海星では数年前から「6年制改革」を実施しています。

6年間という長い月日を海星で過ごすコースだけに、「特教」の魅力をもっと色濃いものにしたい。個性を大切にする海星での「6年間」を通じて、自分だけの能力や才能を発見してほしい。先生方のそんな思いがこの取り組みを推し進めているといいます。

6年制であることを生かして「先取り」学習を実施。国社数理英の5教科は中高6年分の内容を5年から5年半で学習し、残り期間を大学受験対策に充てています。創立以来特に力を入れている「英語」では、公立校とは異なる特別な教材を使って、高いレベルの学びをサポートしています。結果として、大学入試で最難関に合格するのは毎年「特教」の生徒になっています。

「6年制改革」の大きな柱は、6年間を2年ごとのスモールステップに分けて捉える「3ステージ制」を導入したことです。学力向上と人間形成の両面において、2年という短期の明確な目標を持たせることで、次のステージにつながる確実な成長を促すことを目的としています。

例えば、中学3年生と高校1年生が在籍する第2ステージの目標は「自らの可能性に積極的に挑戦し、主体的に考えて行動できる人」になることです。そのために行われるのが「探究学習」。生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換・協働したりしながら進めていく学習です。

海星では’11年度より探究学習プログラム「クエストエデュケーション」を導入。学校にいながら実在する企業でインターンシップ体験ができるプログラムを実施しているそうです。’21年度から実施される新たな学習指導要領では「主体的・対話的で深い学びの実現」をめざす「アクティブ・ラーニング」の重視が打ち出されており、海星の取り組みはこれに先駆けたものと言えます。

このプログラムには、年に1度、学びの成果を社会に向けて発信する「クエスト・カップ」があり、海星は毎年のようにこの全国大会に出場。グランプリにはあと一歩届かないものの、全国的に高い知名度を誇る超名門校と対等に渡り合い、その優秀な成績と強いインパクトを残しているそうです。

そんな「探求学習」への取り組みの中で見えてきた海星の強みは男子校らしい「思いきり」や「勢い」。思考や調査の「緻密さ」に欠けるのが弱みなのだそう。「家族的」とも称される先生と生徒との距離感や,個性を大切にする校風など,歴史の中で培われてきた海星らしさで、今持っている強みを生かしながら共学化によって生まれる多様性で弱みを克服できれば、他の共学校にはない「ワンランク上の共学」が実現できそうな気がします。

多様なチャレンジが可能 <進学特別コース>

「進学特別コース」は「進特」「s」と通称される、高校から入学する3年制教育のコースです。転・編入学は認めていませんので、共学化の対象は’21年度以降に高校1年生として入学してくる生徒のみとなり、3年後の’23年度に全学年の共学化が完了することになります。

6年制の「特別教育コース」に対して「一般コース」と通称されていた3年制教育のコースの中に勉学重視の軸となるコースを設けようと’94年度に設立されたのが「進学特別コース」。従来型の「進学コース」より入試の合格基準を高めに設定していることから意欲的な生徒が多く、結果として、部活動やその他の課外活動もバランスよくできる「文武両道」のコースになっているとのこと。前向きにいろいろなことにチャレンジできるよう生徒の多様性を重視していて、自らやりたいことを見つけて頑張ることが当たり前の環境になっているそうです。

実際、部活動を人一倍頑張った後に、難関大学へ進学した生徒もいれば、一念発起して1年間アメリカに留学した生徒もいるそうです。在籍生徒数は1学年あたり45∼55名くらいの人数で2クラス。2年進級時に文・理系のクラスに分かれ、卒業後は大半の生徒が大学に進学しているとのことです。

現在、共学化に向けて準備していることの1つは1・2年時に実施する「学習合宿」の内容をより充実させること。また、今後ますます重要性が高まると考えられることから、自分の考えをアウトプットする能力の向上に取り組みたいとのことです。具体的には、外部講師の協力も得て論文対策講座を開講する計画を検討しているそうです。また既に全校的に取り組んでいる「探究学習」についても、より進学特別コースのレベルに合わせた内容となるよう準備を進めているとのことです。

共学化がもたらす効果として期待していることの1つが、多くの男子が苦手とする「きめ細やかさ」を生かした行動様式の波及効果。ややもすると大雑把なものになりがちだったグループワークやスケジューリングなどの場面でも、「きめ細やかさ」が発揮されることが当たり前になる。コース全体にそんな雰囲気が醸成されれば、これまで以上に生徒それぞれの能力が生かされるであろうと期待されています。

また、社会や人生に対する視野も広がるであろうことから、勉学や部活動といった日常生活においても、また進学や留学といった進路に対しても、チャレンジの幅が広がることが期待されています。それはきっとこれまで以上に多様な卒業生を輩出することにつながるでしょう。

どんなことに対しても前向きにチャレンジしていく人を育てるという方針が、共学化を経ても変わらないのはもちろん、海星がこれまで育んできた「結束力」や「力強さ」といった男子校ならではの良さや伝統は変えずに残したいとのこと。「海星らしさ」をうまく生かしつつ、共学化によって得られる変化をうまく取り入れて1つ上のステージを目指してもらいたいところです。

新たな時代に向けて新設 <国際数理コース>

「国際数理コース」は、男女共学化と同時に高校に新設される3年制教育のコースです。海星の学内における位置付けとしては、勉学の面で「特別教育コース(6年制)」と競い合えるレベルを目指すとのことです。

コースのコンセプトは「国際」と「数理」の名に象徴されており、そのコンセプトにあったカリキュラムが編成されるそうです。

「国際」の語は、国際社会の中で様々なチャレンジができる人を育成しようというコンセプトを表しています。創立以来、語学教育を重視してきた海星らしい方向性です。特に文系の生徒には2年次以降でスピーキング(話すこと)、リスニング(聞くこと)にとどまらずディスカッション(議論)の能力も身につけられるカリキュラムが用意されるそうです。

単に英語が話せることだけで満足するのでなく、日本や世界の歴史や社会情勢などを深く理解した上で、世界の人々と中身の濃いやりとりができるレベルを目指してほしい。そんな熱い思いから、調べ学習や共同学習など取り入れた主体的な学習の機会を重視し、思考力、判断力、表現力を伸ばせる授業を増やしていくとのことです。

「数理」の語は「数理的思考」、論理的なものの考え方ができる人を育成しようというコンセプトを表しています。自然科学の分野に限らず社会の様々な事象に対して、数学的なアプローチで真理を追究しようとする。そんな人物を育てたいとのことです。

また、2年次の修学旅行でシンガポールへの訪問を予定しているほか、希望する生徒にはニュージーランド、オーストラリアへのターム(学期)留学の制度も準備しており、在学中から国際社会へ足を踏み出せる環境が整っているのは、羨ましい限りです。

初年度の募集では1クラス、男女合わせて30名前後の入学を予定。受験を検討しているという女子生徒からの問い合わせも既にあるとのことです。

とはいえ、やはりOBとしては「海星に女子がいる」という状況にピンと来ず、今はまだ違和感を覚えてしまいますが、海星の良さ・海星らしさをうまく残して、より発展した形になってくれたらとても嬉しく思います。

国際数理コース、期待大です!

私立男子校は全体の1.9%~全国で進む共学化

少子化の進む日本では’89年の約564万人をピークに高校生の数が減少し、’19年の調査では約323万人にまで減少しました。これにともない、高校の数は全体で約11%減少したものの、教育熱の高まりや高校授業料無償化の影響などから私立高校の数は約2%増加しました。

高校の減少が進む中、男女別学校の減少はさらに高い割合で進み、全体で約62%が減少。 私立のみで見ると、宗教系の学校が多いせいか約45%の減少にとどまったものの、全私立高校に占める男子校の割合は約20%(’89年)から約7%(’19年)に激減。全高校の約1.9%にまで減少しました。

男女別学校の印象が強いカトリック系高校においても共学化の流れは確実に進んでおり、’20年度現在、カトリック系の男子校は全国にわずか17校。中部地方には海星と南山高校男子部の2校を残すのみとなっています。

全国で進む共学化についてのグラフ

共学化は「海星らしさ」のアップデートだ! ~現場をリードする現職先生による緊急座談会~

いよいよ来年度に迫った「共学化」。男子校として育まれてきた海星の「伝統」はどのように受け継がれていくのか、共学化によって期待できる変化とは ー
現場の先生方を代表して、特教、進特、進学、国際数理コースのリーダーとなる4人の先生方に、共学化について思うところや今後の展望について本音で語り合ってもらった。

日向和義先生(46回生) 日向和義先生(46回生)
加藤和彦先生(44回生) 加藤和彦先生(44回生)

ーー奇しくも4人はいずれも中高6年間を海星で過ごしたOB。学生時代に感じた「海星の良さ」は?

瀬川智紀先生(特教)「何かをしようとしたときに、けっこう自由にやらせてくれる『懐の深さ』かな。やりたいことがやれる学校という印象があるわ。」

日向和義先生(進特)「何かをやってもらったという記憶はないですけどね。何もしてくれないところが海星の良いところ(笑)。」

瀬川「先生は基本的に何もせず、寛容に見守ってくれてた。本当にあかんぞっていうとこだけ手を出して。そういう意味では、昔から『ファシリテート』してたよね。今思えばすごく先進的。」

位田紀行先生(国際数理)「ジン先生の物理部なんて、クラブの中に色々なサークルがあって、それぞれやりたいことをやらせてもらえてた。今の生徒は自主的に『こういう活動をしたいです』みたいなことをあんまり言わなくなったかな~。」

瀬川「今の子は、やることがあるんですよ、部活動とか。それで他のことに目を向ける余裕が無くなってる。少し寂しい感じはするけどね。僕らの頃は、海星祭の準備にしても『俺、部活ないから』って残って作業する層がおったんですよ。」

日向「僕らの頃でいえば、スペイン人の神父さんたちの存在も大きかった。」

瀬川「みんな怒られてましたよね。本当に怖かった。それに比べたら、今『怖い』って言われてる先生なんか全然怖くない(笑)。」

位田「でもそこには愛があったよね。」

加藤和彦先生(進学)「スジが通ってないことには厳しかったね。」

日向「そういえば、僕ら卒業する時、ヘルマン校長でしたけど、式の最後みんな1人ずつ校長と握手して帰りましたもん(笑)。『やろうぜ!』みたいなノリでね。今の子はそういう遊び心があまりない。」

瀬川「みんな大人しいよね。ちょっと寂しい(笑)。」

ーー海星特有の「寛容さ」は、現在も受け継がれています。

日向「『留学したい』って生徒がいたときに『よっしゃ1年行ってこい』って、ポンっと送り出せるのって、すごいと思いますよ。他の学校ではありえないでしょ。留学にしても部活動にしても勉強にしても、プログラムが用意されているから、何かにチャレンジすることに対してのハードルは低い。 だから『これをやりたい!』っていうものがある人は、ぜひウチにおいでと言いたい。そして『何かまだ見えてないけど、高校で何かやってみたい』っていう人も、ぜひウチにおいでと言いたい。そのための選択肢を多様に揃えているから。絶対に公立の進学校にはないもん。」

位田「で、そこに女子が入ってくることによって、どう変わっていくのだろうかと…。」

日向「さらに選択肢が広がっていくと思います。女子の目線で『こんなことしてみたい』ってのが、きっと出てくるから。」

瀬川「6年制でいうと、中学校から女子が入ってくる影響は大きいと思う。中学男子ってすごくコドモ。で、6年制のOBを見てると、みんな良い意味でコドモらしさを残したまま大人になってる。バカ正直に夢を語れたり、『爆発力』があったり。そういう部分は男子校ならではの良さで、これからも大事にしたい。 女の子にも男の子のコドモらしさの魅力を知ってほしいし、できれば女の子にもそんな魅力を身につけてほしい。一方で、男の子にも女の子の良さを見ながら学んでほしい。海星の生徒を『探究学習』の全国大会に連れていって思ったのは、共学の他校に比べて力強さ、勢いがあること。でもプレゼンの内容に圧倒的に緻密さが無いし、調査力も足りない。 やっぱ女の子がいるところってそういうところがバツグンなのよ。だから共学化して女の子が入ってくることによって、これまで弱点だったコツコツと積み上げていく力が男の子にも身につくことを期待したい。もちろん、コドモな男子がオトナな女子に押されて委縮してしまわないかという不安もあるんだけど…。それだけに女子と男子が互いの良さを認め合って受け入れていく過程を、いかに見守っていけるかが教師にとって重要になってくる。 個性が打ち消し合って中和されるんじゃなくて、混在したままお互いに認め合える。そんな受容力を生徒たちには身につけてほしい。考えてみればすごくカトリック的だよね。教師にはそれを見守って育てる力、ファシリテート力が求められるね。」

日向「その部分の教員のスキルは今も伸びていってると思いますよ。探究学習のサポートの仕方を見てても他の学校の先生たちよりできてますもん。うちの先生はできる気がする。」

ーー同窓生としては、複雑な心情も見え隠れします。

日向「男子校の良さは潰したくない。客観的に見て共学化の必要性は理解できますけど、一卒業生としては、正直、共学になってほしくないですもん(笑)。コロナのせいで今年『男子校最後の行事』ができないのも切なくて…。」

位田「自分も、男子校っていいなと思ったから、ここで働いてみたいとも思ったし。教員としての立場と、一卒業生としての心情が違うのは僕も同じ。」

瀬川智紀先生(43回生) 瀬川智紀先生(43回生)
位田紀行先生(44回生) 位田紀行先生(44回生)

瀬川「正直、女の子がいる海星祭も体育祭もまだ想像ができない。『行進』とか(笑)。どんな感じになっていくんやろうってワクワクする部分もあるけどね。中高6年間、男子校で過ごした弊害っていうのは僕らにも少なからずあって、女の子との距離のとり方とかよく分からないとか(笑)。」

日向「あるある(笑)。」

瀬川「『男女共同参画』が進んで女性と接する機会がますます増えていく中で、女性の特性を知るとか、話し合いの場に女性がいるということを経験しておくのは大切かなと。同時に、男子校的な良さを身に付けながらそういう経験が積めたら、他の共学とは違う男の子を育てられるよね。」

日向「ほんと男子校の良さ、死守! ですよ。10年経って生徒の男女比がそれほど変わらなくなっているであろうその時に、ちゃんとそれを残せているか。」

位田「男子校の卒業生である我々が、しっかりと『男子校の良さ』を共通認識できていないと、消えていくよね。」

日向「『行進』も続けていかないと(笑)。」

瀬川「この前、外部の人と話していて『海星って、男子校なのに穏やかですよね』って言われた。あまり意識していなかったけど、やっぱり、カトリック校の特長なのかなと思った。『思いやり』とか、特に強く言われているわけでもないけど、どっかに根付いてて、当たり前にできているというのはすごいことだよね。」

加藤「たまに外からわざわざ、生徒の親切な行動や礼儀正しさに対してお褒めのお電話をいただいたりする。そんな行動ができるって素晴らしい。うちの嫁さんも、海星の生徒を駅とかで見かけたりすると、なんとなく雰囲気的に優しいとか礼儀正しいとか言ってくれてる。」

位田「何でそうなってるか分からんけど、できている。当たり前にできている。」

日向「やっぱりカトリック校としての、海星の建学の精神が土壌に息づいているんだと思います。校舎が持っている空気。この空気に触れたら大丈夫。」

加藤「教員に卒業生が多いことも男子校の良さを残すことには強みになると思う。」

瀬川「校風って間違いなくあるよね。例えば、校則にしても、生徒たちはたとえ心の中で反発していても協力しようとしてくれる。教員としては、きっちり守らせていくんだけど、それは上から頭ごなしに強制するんではなくて、1人の人間として生徒たちの目線に合わせて『協力してくれ』って指導してる。カトリック精神が表れてる。」

日向「僕らが学生のときは、一切そんなことなかったですけどね(笑)。」

瀬川「でもやっぱり海星って、昔も今も生徒1人1人ときちんと向き合おうとする姿勢が学校全体ですごくあると思う。だから先生も優しいし、生徒もすごく優しい。」

ーーそんな海星はこれからどんな学校に成長していくのでしょうか。

日向「勉強をがんばる子、部活をがんばる子、ボランティア活動に取り組む子、海外を目指す子、それぞれが楽しい、幸せと思える学校であればいい。『文武両道』も個人で達成できている必要はなくて、学校としてできていれば、それでいいと思う。」

瀬川「僕も、みんなが楽しんでる学校やったらええなってすごく思うわ。お互い認め合って応援しあえるような関係性ができれば、1人1人の個性が生かされて、みんながやりたいことをやれて。その先に『勉強もやったらおもろいやん』って思える層が増えて、自分の目的意識を探せるような学校やったらええな。」

加藤「『海星は前から変わらんよね』って言ってもらえるような感じでありたいなと。勉強で、スポーツで、他の活動でって、いろんなタイプの生徒がそれぞれお互いに認め合えるのが海星らしさかなと思っていて。だから同じように、男の子らしさ、女の子らしさもそれぞれ認め合って生かせるような学校になると思う。共学化しても『海星は海星だね』と思ってもらえるような、変わらない海星らしさを残していきたいと思う。」

位田「そう。全く新しいものになる『リニューアル』じゃなくて、今の価値がより良くなる『アップデート』を目指していきたい。そのために、今、各コースのリーダーを任されている我々の世代が、同じ志を持っている者として、力を合わせて頑張っていかないといけないなと感じている。」

ーー校歌が謳うとおりに、すべての生徒が「愛と真理に育まれ」る海星の教育。その未来に「栄えあれ」と願う私たちの願いはきっと叶えられることでしょう。

飲食可のスペース 飲食可のスペースなので、ランチやお茶も楽しめます。

ランチもトークも楽しく

やわらかな木漏れ日が差し込む管理棟の1階ロビー。いつも笑顔が行き交う図書室前のスペースに、ちょっとおしゃれな六角形のテーブルが新たに配置されました。休み時間におしゃべりを楽しんだり、みんなで放課後に勉強したり…。そんなシーンで利用されるのでしょう。

みんなが笑顔でテーブルを囲めるよう、一日も早くコロナ禍が収まることを願いたいですね。

おしゃれなトイレの完成予想図 おしゃれなトイレの完成予想図

トイレだって清く明るく

共学になると聞いて、まっさきに「トイレどうするの?」と思いついてしまったあなた! 気持ちは分かります。外出先で男女の峻別を強いられる場の筆頭は、何と言ってもトイレですもの。当たり前です。

もちろんトイレの改修工事も順次行われます。男子用しかない現在のトイレを男女2つに分割することはせず、「3階は男子、2階は女子」といった具合に階によって分ける形を採用する計画。

今年度中に工事が行われるのは新中1の教室に近い北館2階と、新設される国際数理コースと進学特別コースの教室に近い本館3階のトイレ。これらは従来の男子用トイレが女子用に改修されます。

内装には白壁と木目調のモダンなデザインが採用され、明るく清潔感ある空間になりそう。温水洗浄便座や自動の吐水栓が導入される他、鏡のある手洗いスペースも広めに確保されます。

この他、体育館にある既存の女子トイレのリフォームも今年度中に行われる予定です。

来年度以降、年度を重ねるにつれて女子生徒の割合も増加すると見込まれるため、入学者数の動向を見ながらさらに女子トイレの数を増やしていく予定とのことです。

新しく導入されるロッカーとパーソナルロッカー 新しく導入されるロッカーとパーソナルロッカー

ロッカーも新仕様

従来のロッカーは木製の固定型で、錠はもちろん扉も付いていませんでした。

新たに採用されるのは扉付きのプラスチック製で、数字を合わせて解錠するダイヤル式のナンバー錠が付いています。

このロッカーの最大の特徴は、従来型と違って収納スペースが1人分ずつの「箱」に分かれていることです。

入学時に1人1人が自分用の「パーソナルロッカー」を購入し、教室にはクラス人数分のロッカーを連結して設置します。進級して教室が変わるときは連結が解除され、それぞれが自分のロッカーを「お引っ越し」して新しい教室で使います。卒業するときは、使い続けた自分のロッカーを思い出とともに持ち帰る…というわけですね。

新しい制服 ※ごく一部のみ掲載 新しい制服 ※ごく一部のみ掲載

制服は「海星プライドスタイル」

新しい制服は流行に左右されない上品な「濃紺色」に、海星のイメージカラーとも言える「常磐色」(常緑樹を象徴するグリーン)を掛け合わせたデザイン。校章モチーフのオリジナルエンブレムと金ボタンが学園の伝統と品格を強調しています。

トップスは長袖のカッターシャツかブラウスにブレザー、ネクタイ。ボトムスはスラックスか無地のスカートを選ぶスタイルが「正装」。

この他に、夏用のスラックス・スカート(無地とチェック)、半袖のカッターシャツ・ブラウス・セーラー襟ブラウス、リボン、ニットのベスト、セーター、ダッフルコート、ピーコートを自由に追加でき、どれも男女を問わず選択できるようにするとのことです(写真はごく一部のみ掲載)。

女性の声を生かして

「共学化」に向けた準備は、多岐にわたります。校内には既存の部署以外にも複数のプロジェクトチームが作られ、それぞれのチームで先生方が知恵を絞って検討を重ねておられます。

海星を目指す女子生徒の皆さんが気持ちよく入学し、卒業までの時間を快適に、安心して過ごせるようにすること。そのためにはやはり女性の視点、女性の声を生かすことが欠かせません。そこで全てのプロジェクトチームに女性の先生方や事務職員の皆さんが1名以上参加し、それぞれで意見を出してくださっているそうです。

高校の制服は今や学校選びの大切なポイントの1つになっています。ここにももちろん女性の声が生かされています。

例えば男子の多くが無頓着なポケット。ハンカチを入れるのに使い勝手の良い位置やサイズが考えられています。生理時に汚れてしまうリスクを想定して無地のスカートが選択できるようになっていたり、夏のブラウスに透けにくい生地が採用されていることなども、女性ならではの視点が生かされた結果と言えるでしょう。

スカート丈や髪型について何らかの基準を設定するのか、設定するとしたらどんな基準にするのか。これから詳しく詰めていく中でも、女性の意見が取り入れられていく見込みです。

校舎内の構造やデザインについても女性の声が反映されます。更衣室の遮蔽性や階段周りの構造などは、セクシャルハラスメントの温床にならないようしっかり現場検証して改善が図られました。女子用に改装される女子トイレの内装の色合い、新調される共学クラスの教室のカーテンなどの選定にも女性の声が生かされています。壁のシミなど不快な汚れなども改めてチェックし、クリーニングや再塗装が進められています。

保健室でもソフト・ハードの両面で対応を計画しているとのこと。プライバシーを確保するためにベッドの間隔を空けたり、透けない間仕切りを置いたりするほか、女子用の相談スペースを確保することや生理汚れを想定して着替え用の制服を備え付けておくことなどが予定されており、これらは女性である養護の先生が主導して進めておられるとのことです。

ランチの画像 サラダ単品もオーダー可だとか。

ランチも様変わり?

食堂だって「激腹」男子向けの盛り盛りメニューばかりを並べているわけにはいきません。新たなメニューが登場する予定です。 例えばパスタ・セット。「まんが盛り」はなりを潜め、代わりにスープとサラダ付き。その他の定番メニューも「小盛り」が選べるようになるそうです。 パンのコーナーには、シンプルなサラダ系定番サンドイッチが復活。心ないアブラー男子に「貧民サンド」と揶揄され、ギトギト系惣菜パンに駆逐された定番サンドの復活は海星新時代の象徴となるかも。

女子へのフォローは万全

在校生にとって「共学化」は、久しぶりに「女子と共存する」ということを意味します。多くの生徒が「久しぶり」の環境に最初は戸惑うことでしょう。慣れない環境を冷静にやり過ごせる生徒もいれば、これまで以上に張り切る生徒もいるでしょう。なかには、自分に興味を持ってほしくて「気になる女の子」をからかったりしてしまう、そんな「不器用な思春期の男の子」もいるかもしれません。男子校出身の同窓諸兄は、我が身を振り返っていろいろな心配をされることでしょう。

共学化後に起こりうる様々なトラブルについては、他校の情報を集めるなどして「想定外」が無いよう準備を進めているとのこと。万一の事態には他の様々なトラブル同様、担任と学年担任団が中心となり、「生徒指導部」と協力してその解決にあたることになります。授業担当者や学年担任団とも連携を取りながらチームプレーで対応していく体制は既に確立されています。職員室が学年や教科で分かれていない海星のスタイルは、先生方の間で情報共有するのに極めて有効とのこと。単なる儀礼的な注意喚起にとどまらず、厳しく叱ったり、じっくり諭したり。それぞれの生徒や状況に応じて柔軟に対応する、海星らしい愛ある生徒指導は、男女を問わず生徒諸君の人格形成をしっかりサポートしてくれることでしょう。

制服が変わることもあり、校則についてもこの機会に従来の内容を見直すことになります。海星の伝統をふまえつつ、時代に即した内容に改定するとのこと。近隣の公私立学校だけでなく、男子校から共学化した他校の校則も参考に、慎重に会議を重ねておられるそうです。

中高生時代はいわゆる「思春期」であり、人格形成の面においてとても大切な時期にあたりますが、それだけに精神も不安定になりがちです。その上、海星には小学生の幼さが残る中学1年生から、大人の仲間入りをする高校3年生まで、多様なメンタリティを持つ生徒が在籍しています。容易ではない精神面のサポートをチームで担うのが「生徒支援部」です。海星が大切にしてきた「こころの教育」をさらに充実させるため、’07年に設置されたそうです。また、同部と連携してメンタル面のサポートに当たる嘱託のカウンセラーは、共学校での経験も豊富な先生とのこと。男女を問わずしっかりとサポートできる体制が整えられているようです。デリケートな事柄も気軽に相談できるよう、各学年の担任団に最低1人は女性の先生を配する配慮にも安心感があります。

また、保健室に常駐する養護教諭も女性の先生。相談などで保健室を訪れる女子生徒がストレス無く利用できるスペースを確保するため、ハード面の改修も行われます。

もちろん、これまで無いに等しかった女子用トイレや女子用更衣室の増設も順次進められます。誰もが快適に安心して使用できるスペースになるよう、十二分な検討が行われているそうです。

共学化は先生方にとっても新たなチャレンジとなるわけですが、男子も女子もどちらも大切な「海星の生徒」であることに変わりはありません。男女を問わず全ての生徒が自然体で共生できるよう、安心と安全を第一に、これまで同様それぞれの心に寄り添う姿勢で子どもたちと向き合っていただけることでしょう。

スクールバス運行ルート スクールバス運行ルート

スクールバスも運行開始

共学化に合わせ’21年度からスクールバスの運行を開始することが計画されています。より安心・安全で快適な登下校環境を確保するための取り組みです。

ただし、今のところまだ計画立案中の段階であり、詳細は未定です。

検討中の運行ルートは、塩浜駅と学校を南四日市駅を経由して結ぶルート。既に三重交通が県道6号と県道629号を通る路線バス(磯津高花平線)を運行しており、そのルートを活用する形での運行が有力とみられます。

近鉄名古屋線を利用して鈴鹿、津方面から登校する生徒、同じく四日市、桑名方面から登校する生徒、またJR関西本線を利用して桑名、名古屋方面から登校する生徒や伊勢鉄道を利用して鈴鹿、亀山方面から登校する生徒の利用が想定されています。具体的な利用者数の想定は今後慎重に進めるとのことです。
運行本数も未定ですが、朝の登校時間帯と夕方の下校時間帯にそれぞれ数便が運行されることになりそうです。

全生徒が利用するサービスではないこと、また、あすなろう鉄道の利用促進との兼ね合い等から、相応の運賃が設定される予定で、路線バスと同程度になる可能性が高いとのことです。

また、再来年度以降には市外を含むさらに遠方からの直通バスの運行も検討されているそうです。

生徒さん自身にとっても、保護者の皆さんにとっても、登下校の安心・安全は切実な問題です。利便性の高いスクールバスの運行が実現することを期待したいですね。

新調される下駄箱(写真は商品サンプル) 新調される下駄箱(写真は商品サンプル)

昇降口はさわやかに

登校してくる生徒たちを毎日受け入れるのが「昇降口」。気持ちの良い学園生活を送れるよう昇降口もリフレッシュします

今年度中に工事が行われるのは、正門から一番近い保健室横のD昇降口と、体育館玄関と向かい合わせのE昇降口、前者は「国際数理コース」と「進学特別コース」の、後者は「特別教育コース」の新入生たちが利用する昇降口に当たります。

新しい下駄箱の空色の扉が爽やかな空間を演出してくれそうです。

戻る